顔勤礼碑が示す顔真卿の雄大な唐代楷書
顔勤礼碑が示す、楷書の一世紀
九成宮醴泉銘の欧陽詢、孔子廟堂碑の虞世南。これまで紹介してきたのは、いずれも唐の建国間もない「初唐」に活躍した書家でした。今回取り上げる「顔勤礼碑(がんきんれいひ)」の書家、顔真卿(がんしんけい)が活躍したのは、それより一世紀近く後の盛唐・中唐の時代です。
鋭く引き締まった初唐の書風に対し、顔真卿の書は雄大でゆったりとした、まったく異なる魅力を持っています。同じ唐代楷書でありながら、なぜこれほど印象が変わるのでしょうか。
この記事では、顔勤礼碑の成立背景、顔真卿という人物、初唐の楷書との書風の違い、臨書のポイントを解説します。
顔勤礼碑とはどのような法帖なのか
顔勤礼碑は、唐代の書家 顔真卿が、自身の曾祖父にあたる顔勤礼(がんきんれい)のために撰文・揮毫した神道碑(しんどうひ、墓所のそばに死者の生前の功徳を頌して建てる石碑)です。
碑の正式な全称は「唐故秘書省著作郎夔州都督府長史上護軍顔君神道碑」といい、顔勤礼が秘書省著作郎(書物の編纂等を司る官職)であったことにちなんでいます。
唐の大暦14年(779年)に建てられたと伝えられており、顔真卿が71歳のときに自ら撰文・書したとされています。
石碑は複数の面に文字が刻まれており、建立から長い間所在が分からなくなっていましたが、民国11年(1922年)に西安市内で再発見されました。現在は中国・西安の西安碑林博物館に所蔵されています。
顔真卿とはどのような人物か
顔勤礼碑を書いた顔真卿は、709年に生まれ、785年に没したと伝えられる唐代の書家・政治家です。
顔真卿が顔勤礼碑を書いたのは71歳のとき、すでに書家・政治家として長いキャリアを重ねた晩年のことでした。
書道史上、顔真卿は欧陽詢・柳公権(りゅうこうけん)・趙孟頫(ちょうもうふ)とともに「楷書四大家」の一人に数えられています。特に柳公権との並び方は「顔筋柳骨(がんきんりゅうこつ)」と称され、顔真卿の書は筋肉のような力強さを、柳公権の書は骨格のような引き締まりを表すとされています。
政治家としては、安史の乱(755年)の際に反乱軍に対して抵抗したことで知られ、のちに反乱を起こした李希烈(りきれつ)のもとへ使者として送られた際に捕らえられ、785年に命を落としたと伝えられています。
欧陽詢の鋭く引き締まった初唐の書風に対し、顔真卿の書は、ゆったりとして雄大で力強い、まったく異なる魅力を持つ書風として知られています。
顔勤礼という人物について
碑の主人公である顔勤礼は、顔真卿の曾祖父にあたる人物で、秘書省著作郎という官職にあったと伝えられています。
顔真卿が晩年になってから、自身の家系の先祖にあたる人物のために、自ら撰文・揮毫してこの神道碑を建てたという点に、顔家の家族への思いの深さがうかがえます。
顔勤礼碑、千年近く土の中に
顔勤礼碑には、建立後長い間所在が分からなくなっていたという、他の唐代楷書の名品にはあまり見られない運命がありました。
建立から1000年近くもの間、碑は土の中に埋没していたと伝えられています。そして民国11年(1922年)、西安市内の土中から再発見されました。
長く地中に埋もれていたためか、顔勤礼碑は他の古い碑に比べて文字の摩滅が少なく、拓本にずれや文字のあいまいさがほとんどないという特徴があります。中断(ちゅうだん、碑が折れていること)はあるものの、文字がはっきりと読み取れる状態で残っており、顔真卿の書法を学ぶうえで非常に貴重な資料となっています。
現在、顔勤礼碑は中国・西安にある西安碑林博物館に所蔵されています。
なお、顔真卿は顔勤礼碑のほかにも、建中元年(780年)に成立した「顔氏家廟碑(がんしかびょうひ)」という代表作を残しています。この顔氏家廟碑の拓本は、東京国立博物館と台東区立書道博物館にそれぞれ所蔵されており、日本でも顔真卿の書に触れることができます。
顔勤礼碑を書くときのポイント

顔勤礼碑の特徴は、雄大で力強く、ゆったりとした構えの中に確かな骨格を持つ書風にあります。
臨書の際に意識したいポイントとしては
- 雄偉で渾厚な構え:一字一字がゆったりと大きく構えられ、堂々とした印象を与える
- 蚕頭燕尾(さんとうえんび)の捺(はらい):捺の起筆をふっくらと丸め、終筆で力を込めて勢いよく払う
- 横画は細め、縦画は太め:横画と縦画の太さの対比をはっきりさせる
- 内に込めた力:外見の大きさ・ゆったりさの内側に、しっかりとした筆力を込める
- 蔵頭護尾(ぞうとうごび):起筆・終筆ともに筆先を隠すように丸く収め、角張らせない
以上が挙げられます。
欧陽詢の九成宮醴泉銘が「峻厳・緊密」な書風、虞世南の孔子廟堂碑が「温和・寛容」な書風であったのに対し、顔真卿の顔勤礼碑は「雄大・力強い」という、これまで紹介してきた唐代楷書とはまた違った魅力を持つ書風です。
これまで初唐の書家の楷書に取り組んできた方は、顔勤礼碑でその骨格の大きさ・力強さの違いを実感してみると、唐代楷書への理解がより深まるはずです。
これまで紹介してきた唐代楷書と顔勤礼碑、書風の違いを実際の紙面で見比べてみるのもおすすめです。手元に置く一冊としては、やはり中国法書選の読みやすさに助けられています。
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顔真卿
顔勤礼碑[唐・顔真卿/楷書] (中国法書選 42)

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顔勤礼碑 (中国法書選 42)
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