雁塔聖教序とは?褚遂良が確立した楷行融合の書風

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雁塔聖教序とは?褚遂良が確立した楷行融合の書風

大雁塔に刻まれた、二つの碑文

中国・西安にある大慈恩寺の大雁塔(だいがんとう)には、一つの出来事を記念する二基の石碑が並んで立っています。皇帝・太宗が記した序文を刻んだ碑と、その子・高宗が記した序文を刻んだ碑です。この二基をあわせて「雁塔聖教序(がんとうしょうぎょうじょ)」と呼びます。

書いたのは、初唐の四大家の一人、褚遂良(ちょすいりょう)。九成宮醴泉銘・孔子廟堂碑と並び称される楷書の名品でありながら、随所に行書的な筆致も見られる、変化に富んだ書風が特徴です。

この記事では、雁塔聖教序が建てられた経緯、褚遂良という人物、書の特徴、臨書のポイントまでを解説します。

雁塔聖教序とはどのような法帖なのか

雁塔聖教序は、中国・唐時代の書家 褚遂良(596〜658年)が書いた2基の石碑です。永徽4年(653年)に建立され、楷書で書かれています。

2基は内容が異なります。一つは唐の太宗(李世民)が撰文した「大唐三藏聖教序」、もう一つは太宗の子で当時は皇太子だった高宗(李治)が撰文した「大唐皇帝述三藏聖教序記」です。いずれも、僧・玄奘(げんじょう)がインドから持ち帰った仏典の翻訳事業を称える内容です。

碑は中国・西安の大慈恩寺にある大雁塔(だいがんとう)に現存しており、これが「雁塔聖教序」という呼び名の由来になっています。

褚遂良が最晩年、58歳のときに書いたと伝えられています。

褚遂良とはどのような人物か

雁塔聖教序を書いた褚遂良は、欧陽詢・虞世南・薛稷とともに「初唐の四大家」の一人に数えられる書家です(薛稷を除く3人を「初唐の三大家」と呼ぶこともあります)。

596年に生まれ、658年に没したと伝えられています。唐の太宗に仕え、のちに皇太子(のちの高宗)の教育にも関わったと伝えられています。

書は、はじめ虞世南の書法を学び、のちに鍾繇(しょうよう)や王羲之の書法も吸収したと言われています。

欧陽詢・虞世南の書法を自分なりに吸収・融合し、独自の書風を確立したことから、後世「褚体(ちょたい)」とも呼ばれています。

「雁塔聖教序」の名前の意味

雁塔聖教序という名前は、次のような言葉から成り立っています。

雁塔:碑が現存する大雁塔(西安・大慈恩寺にある仏塔)のこと。
聖教:仏の教え、ここでは玄奘がもたらした仏典・教えを指します。
序:書物や事業の由来・意義を述べた文章。

つまり「雁塔聖教序」とは、「大雁塔にある、仏の教え(玄奘の訳経事業)について述べた序文の碑」という意味になります。

雁塔聖教序はなぜ建てられたのか

玄奘は、仏典を求めてインドへ赴き、長い旅を経て経典を持ち帰り、その翻訳に生涯を捧げた唐代を代表する僧です。

雁塔聖教序は、この玄奘の訳経事業を、皇帝自らが讃える言葉を碑に刻んで残すことで、事業の重要性と仏教への皇室の支援を内外に示すことを目的に建てられたと考えられています。

日本にも伝わる雁塔聖教序の拓本

雁塔聖教序の拓本は、日本の美術館・博物館にも所蔵されています。

東京国立博物館には、実業家・高島菊次郎氏が寄贈した雁塔聖教序の拓本(唐時代・永徽4年)が所蔵されており、京都国立博物館にも別の雁塔聖教序の拓本(唐代7世紀)が所蔵されています。本記事の画像は、この東京国立博物館所蔵の高島コレクションの拓本をもとにしています。

遠く離れた日本の博物館で、1300年以上前に西安で刻まれた碑の拓本を直接見ることができるというのは、興味深い事実です。

雁塔聖教序を書くときのポイント

雁塔聖教序の特徴は、楷書でありながら行書的な筆致が随所に見られる、変化に富んだ書風にあります。

雁塔聖教序 拓本(東京国立博物館蔵、出典:ColBase https://colbase.nich.go.jp/)
雁塔聖教序 拓本(東京国立博物館蔵、出典:ColBase https://colbase.nich.go.jp/)

臨書の際に意識したいポイントとしては

  • 横画の反り:横画には仰勢(上に反る)・平勢(水平)・覆勢(下に反る)の3種類があり、同じ横画でも表情を変えている
  • 縦画のうねり:起筆部分がやわらかくうねった縦画が多く、文字に動きを与えている
  • 穏やかなハネ:終筆で力を抜くように軽く持ち上げる、抑制の効いたハネが多い
  • 同字の書き分け:同じ文字が複数回出てきても、少しずつ形を変えて単調にならないようにしている
  • 細くても芯のある線:線は細いが、しなる竹のような強さを内に秘めている

以上が挙げられます。

欧陽詢の九成宮醴泉銘が鋭く引き締まった書風、虞世南の孔子廟堂碑が穏やかにふくらむ書風であるのに対し、褚遂良の雁塔聖教序は、その両方を吸収したうえで、よりしなやかで動きのある書風へと展開させています。初唐楷書の到達点の一つとして、臨書する価値の大きい古典です。

すでに九成宮醴泉銘や孔子廟堂碑で学んだ方は、それらとの書風の違いを意識しながら取り組むと、唐代楷書への理解がより深まるはずです。

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