十七帖とは?「書中の龍」と称された王羲之の草書の手本
楷書・行書の次は、草書の古典へ
九成宮醴泉銘・孔子廟堂碑・雁塔聖教序で楷書を、蘭亭序で行書を学んできた方が、次に出会うことになるのが草書です。その入り口として古くから選ばれてきたのが「十七帖(じゅうしちじょう)」、「書聖」王羲之(おうぎし)が残した尺牘(せきとく、手紙のこと)を集めた法帖です。
宋代の書家・黄伯思はこの法帖を評して「書中の龍なり」という言葉を残したと伝えられています。なぜこれほどまでに高く評価されてきたのか。この記事では、十七帖の成立背景・書の特徴・臨書のポイントを解説します。王羲之という人物については、蘭亭序の記事で詳しく紹介していますので、そちらもあわせてご覧ください。
十七帖とはどのような法帖なのか
十七帖は、中国・東晋の書家 王羲之が記した尺牘(手紙)を集めた法帖です。収められている尺牘の多くは、当時蜀(しょく、現在の四川省)の地方長官であった周撫(しゅうぶ)にあてたものとされています。
名前の由来は、集められた尺牘の最初の一通が「十七日」という日付から書き始められていることによります。この冒頭の文字をとって「十七帖」と総称されるようになりました。
収録されている尺牘の数については、27通とする説と29通とする説があり、伝本によって異同があります。
唐の太宗(李世民)は王羲之の書を深く愛好し、王羲之の書作品を3,000枚以上も集めたと伝えられています。十七帖は、その膨大な収集品の中の一つでした。
唐代の範本、そして今に伝わる系統
唐の時代、十七帖は石に刻まれ、拓本として広められました。石に刻された経緯から、「唐代の弘文館(こうぶんかん、貴族の子弟に書を教えた機関)で学習用の手本として用いられた」という記録が、中国の複数の資料に伝えられています。この伝承によれば、初唐の能書家である褚遂良(ちょすいりょう、雁塔聖教序の書者)が校訂に関わったとする識語(しきご、書物の由来を記した文章)を持つ系統も存在するとされますが、唐代当時の一次資料でこの経緯を直接確認することはできず、後世の記録に基づく伝承として扱うのが適切です。
石に刻された唐代の原石(そのものの石碑)はすでに失われており、現在に伝わる十七帖は、いずれも唐代の原石から採られた拓本か、その拓本をもとにしたさらなる翻刻(複製の石に彫り直したもの)です。王羲之自身が書いた真跡(紙に書かれたその文章そのもの)は現存していません。
現存する十七帖には複数の系統があり、代表的なものに「館本(かんぽん)」系と「賀監本(がかんぼん)」系があります。それぞれ由来とする石が異なり、字形や拓本の状態にも違いが見られます。
十七帖を書くときのポイント

十七帖は、草書でありながら字形の骨格が崩れておらず、一字一字が独立して読み取りやすいという特徴を持っています。この点は、字と字が連続してつながる「連綿」の草書とは対照的な、「単体」と呼ばれる書き方です。
臨書の際に意識したいポイントとしては
- 字形の正しさ:くずし方が自由奔放ではなく、一つ一つの字形に明確な骨格がある
- 雄健で重厚な趣:線の強さ・太さに、草書らしい軽やかさだけでなく安定感がある
- 独立した字の構え:連綿(字をつなげて書くこと)が少なく、一字ずつがしっかりと完結している
- 手紙としての自然な息づかい:書簡であるため、改まった碑文とは異なる肉筆らしい呼吸が感じられる
以上が挙げられます。
宋代の書家・黄伯思(こうはくし)は十七帖を評して「書中の龍なり」という言葉を残したと伝えられており、草書を学ぶ人にとって、古くから最高の規範として扱われてきました。唐代の太宗が弘文館の手本として整えさせたという伝承も、この法帖がいかに重視されてきたかを物語っています。
これまで紹介してきた九成宮醴泉銘・孔子廟堂碑・雁塔聖教序はいずれも楷書、蘭亭序は行書の古典でしたが、十七帖は草書の古典です。楷書・行書で基礎を固めたあとに草書の古典として十七帖に取り組むと、書体ごとの骨格の違いをより深く理解できるはずです。
日本にも伝わる十七帖の拓本
十七帖の拓本は、日本の美術館・博物館にも所蔵されています。
東京国立博物館には、実業家・江川吟舟(えがわぎんしゅう)氏が寄贈した十七帖の拓本が所蔵されています。本記事の画像は、この東京国立博物館所蔵の拓本をもとにしています。
京都国立博物館にも、実業家・上野精一氏が寄贈した十七帖の宋拓本(宋代に採られた拓本)が所蔵されています。王羲之の草書の代表作として古くから評価が高く、「書中の龍」とも評されてきた一本です。
さらに、東京・台東区にある台東区立書道博物館(書家・中村不折が蒐集した書道史料を収蔵する博物館)にも、賀監本をはじめとする複数系統の十七帖の拓本が所蔵されています。2025年には東京国立博物館と台東区立書道博物館の連携企画「拓本のたのしみ-王羲之と欧陽詢-」が開催され、複数系統の十七帖の拓本が見比べる形で展示されました。同じ法帖でも伝来した系統によって趣が異なることを実際に見比べられる、貴重な機会でした。
なお、十七帖の拓本の中でも特に評価の高いものとして「三井本」という名で知られる一本があります。もと三井家の収集品であったと伝えられていますが、現在の所蔵先については本記事の調査では確認が取れませんでした。遠く離れた日本の博物館で、1600年以上前に書かれた手紙の拓本を直接見ることができるというのは、興味深い事実です。
十七帖は版によって収録されている系統が異なります。迷ったときは、三井本・上野本を併せて収録した中国法書選を選んでおくと安心です。普段愛用している草書の法帖があれば、ぜひコメントで教えてください。
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王羲之
十七帖〈二種〉[東晋・王羲之/草書] (中国法書選 14)

王羲之
十七帖〈二種〉 (中国法書選 14)
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